名古屋地方裁判所 昭和42年(ワ)1145号 判決 1968年4月17日
原告
安藤明
被告
東洋シヤツター株式会社
ほか三名
主文
一、被告江阪昭、被告株式会社五興洋紙店および被告鈴木芳彦は、各自、原告に対し金二三〇万円、およびこれに対する昭和四二年五月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告の被告東洋シヤツター株式会社に対する請求、並びに被告江阪、被告株式会社五興洋紙店および被告鈴木芳彦に対するその余の請求は、いずれも棄却する。
三、訴訟費用中、原告と被告東洋シヤツター株式会社との間に生じた分は原告の負担とし、原告とその余の被告等との間に生じた分は五分し、その三を原告の、その二を右被告等の負担とする。
四、この判決は、主文第一項につき仮りに執行することができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告訴訟代理人は、「被告等は各自、原告に対し金九八五万六五〇三円、およびこれに対する被告東洋シヤツター株式会社は昭和四二年五月七日から、その余の被告等は同年五月六日から、各支払ずみまで年五分の割合による金額を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。
二、被告東洋シヤツター株式会社、同株式会社五興洋紙店、同鈴木芳彦の各訴訟代理人は、いずれも、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二、原告の請求原因
一、被告東洋シヤツター株式会社(以下被告東洋シヤツターという)は、昭和四〇年三月一三日当時、普通貨物自動車ブリスカ(愛四ゆ第一一九八号、以下第一加害車という)を保有していたものであり、被告江阪は、被告東洋シヤツターの被用者であつた。
二、被告株式会社五興洋紙店(以下被告五興洋紙店という)は、昭和四〇年三月一三日当時、軽四輪自動車ハイゼツト(愛そ第二二五九号、以下第二加害車という)を保有していたものであり、被告鈴木は、被告五興洋紙店の被用者であつた。
三、昭和四〇年三月一三日午後九時五〇分頃、名古屋市中村区黄金通七丁目一四番地先通称黄金跨線橋上において、北進中の被告江阪運転にかかる第一加害車と、南進中の被告鈴木運転にかかる第二加害車とが衝突し、その衝撃によつて、第二加害車は約二米後退し、折柄、その附近で車両の誘導をしていた原告に衝突した。
四、右事故は、被告江阪が無免許の上、飲酒酩酊により正常な運転ができない恐れがあるにかかわらず第一加害車を運転した過失と、被告鈴木が工事中のため道路片側のみが通行可能の道路上を第二加害車を運転して通過するに際し、対向車との接触事故を未然に防止すべき注意義務を怠つた過失とが、競合して発生したものである。
五、原告は右事故により、
(一) 顔面挫創、左肩部胸部挫傷、左第ⅡⅢⅣⅤ肋骨々折疑、左ⅦⅧⅨ肋骨々折疑、左上腕骨々折、頭部骨折疑の傷害を受け、
(二) 昭和四〇年三月一三日 大須賀病院入院
同年六月二八日 同病院退院
同年七月一四日 失神半身不随
同年七月一六日 大須賀病院入院
同年八月一一日 脳手術のため東市民病院に転院
同年八月一三日 脳切開手術により前記不随は右事故による脳障害と判明、以後脳切開手術を四回に亘り受ける。
昭和四一年三月二六日 同病院退院
(三) 後遺症として、頭痛・左腕不随・肝臓障害・舌の運動不全を残し、現在に至る。
六、原告の損害
(一) 得べかりし利益の喪失
原告は、右事故当時、愛知海運株式会社に勤務し、年間金五二万八四八〇円(一ケ月金四万四〇四〇円)の収入を得ていた。しかして、右事故当時満四二才一ケ月一一日(大正一二年二月二日生)であつたので、満六五才一ケ月一一日までの二三年間は稼働し、その間少なくとも年平均金五二万八四八〇円を得るものと推認されるところ、前記傷害により、その稼働能力を全て喪失した。よつて、ホフマン式計算法に従い、原告の得べかりし利益の喪失を算出すると、別紙(一)の通り金七八五万六五〇三円となる。
(二) 慰藉料
受傷部位・治療経過・後遺症等を考慮し、金二〇〇万円をもつて相当とする。
七、以上の次第で、原告は、被告等各自に対し金九八五万六五〇三円、および、これに対する被告東洋シヤツターは右事故の日の後である昭和四二年五月七日から、その余の被告等は同じく同年五月六日から、各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三、被告等の答弁および主張
一、被告東洋シヤツターの答弁および主張
(一) 答弁
請求原因第一項の事実中、被告江阪が昭和四〇年三月一三日当時被告東洋シヤツターの被用者であつたとの点は否認し、その余は認める。
同第二項の事実は不知。
同第三項の事実は認める。
同第四項の事実中、本件事故現場が工事中であつて、道路片側のみが通行可能であつたことは認める。
同第五項の事実中、(一)の事実は認め、その余は不知。
同第六項の事実は不知。
被告江阪は、被告東洋シヤツターの従業員ではなく、同被告の仕事を請負つていたものである。そして、本件事故は、被告江阪が夜間被告東洋シヤツター事務所に無断侵入し、同事務所内の訴外渋川鉄雄(同被告工事課長、第一加害車の保管責任者)の机の抽出に保管されていた第一加害車の鍵を右訴外人に無断で持ち出し、同被告の業務と関係なく、私用のため第一加害車を運転中に発生させたものである。
(二) 主張
本件事故現場は、工事中のため片側通行であつた。そして、右工事を施行していた訴外愛光運輸株式会社は、本件事故当時、夜間の工事であるにかかわらず、危険防止のための赤色の注意信号を工事現場に設置することなく、しかも、右現場の道路上に、行政管庁の許可を得ることなく長時間に亘つて生コン車を停車させ、他車の通行を妨害していたものである。
原告は、右訴外会社の従業員として、本件事故当時、右工事現場道路において、同所を通過する自動車の誘導をしていたものである。しかして、右誘導に際しては、停止させるべき車両の停止を確認したのち、進行させるべき車両を進行させ、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたものというべきである。しかるに、原告は、右現場を北進せんとする第一加害車と、南進せんとする第二加害車との双方を認めながら、右両車の動静を注視して、それらに対し適切な指示を与えることなく、漫然懐中電燈を左右に振つていたものである。よつて、本件事故は、右訴外会社による交通妨害等の過失と、原告の誘導方法不適当の過失とにより発生したものである。
そして、被告東洋シヤツターには、第一加害車の保管並びに使用につき何らの責められるべき点はなく、また、第一加害車には、構造上の欠陥又は機能上の障害もなかつた。
二、被告江阪の答弁および主張
(一) 答弁
請求原因第一項の事実中、被告江阪が被告東洋シヤツターの被用者であつたとの点は否認し、その余は認める。
同第三項の事実は認める。
同第四項の事実中、被告江阪が無免許であつたこと、および、飲酒の上第一加害車を運転したことは認め、その余は争う。
被告江阪は、本件事故当時、被告東洋シヤツターの専属的な下請として、同被告の指揮監督の下に、シヤツターの取付工事を行つていたものである。
本件事故当時、訴外愛光運輸株式会社並びに同清水建設株式会社は、右事故現場において、道路工事を施行していたものであるが、右工事にあたつて行政管庁の許可を受けることなく、しかも、工事標識は勿論注意灯も設置せず、大型生コン車二台を右現場に停車させ、長時間に亘つて片側通行となし、他車の通行を妨害していた。しかして、右両訴外会社は、原告に対し右現場を通過する自動車の誘導をなすように命じていたが、交通量の多い、右現場において、原告の灯火信号のみでは、円滑な交通整理を行なうことは不可能であるといわねばならない。よつて、本件事故は、右両訴外会社が事故発生を未然に防止すべき措置を講じることなく、交通量の多い道路上において、長時間に亘り工事を継続し、生コン車を駐車させ他車の通行を妨げた過失により発生したものである。
(二) 主張
本件事故発生は、原告が第一加害車の誘導を誤つた過失により発生したものである。
三、被告五興洋紙店並びに被告鈴木の答弁および主張
(一) 答弁
請求原因第一項の事実中、第一加害車が被告東洋シヤツターの保有にかかる点は認め、その余は不知。
同第二第三項の事実は認める。
同第四項の事実中、被告江阪の過失に関する事実、および本件事故現場が工事中であり、道路片側のみが通行可能であつたことは認め、その余は否認する。
同第五項の事実は不知。
同第六項は争う。
(二) 主張
本件事故は、次に述べるごとく、被告江阪並びに原告の過失により発生したものであり、被告五興洋紙店並びに被告鈴木に過失はない。
本件事故現場は、通称黄金跨線橋上であり、右事故当時、訴外清水建設株式会社並びに同愛光運輸株式会社により、右橋東側において右橋拡張工事が行なわれていたものである。そして、右両訴外会社は、右事故当時、右工事現場に危険防止のための点滅灯を設置することなく、夜間工事を施行し、右現場道路東側に生コン車二台を停車させて、同所を約四〇米に亘つて占拠し、同所を通過する車両等に対しては、右道路四側(幅員六・六米)のみ通行させることとし、原告一人に対し右車両等の誘導を命じていた。
被告鈴木は、本件事故当時第二加害車を運転して南進し、右事故現場にさしかかつた。そして、右現場附近において、原告が南方向に向つて懐中電灯を左右に振り、北進車両に停止の合図をし、次いで第二加害車に進行の指示をしたのを認めて、前記生コン車西側約一米の個所を時速約二〇粁で南進中、突然第一加害車が原告の前記信号を無視して北進して来たため、右車両と正面衝突をするに至つたものである。
被告江阪は、本件事故当時、無免許であるのに加えて、飲酒酩酊し正常な運転ができないにかかわらず、第一加害車を運転して北進し、右事故現場にさしかかつたが、右酔のため原告の発する停止信号を見誤り、且つ南進して来る第二加害車に気付かず、漫然右現場道路中央寄りを進行したため、第一加害車を第二加害車に衝突させた。
原告は、第一加害車並びに第二加害車を誘導するに際し、北進する第一加害車の停車するのを確認したのち、南進する第二加害者に対し進行の合図を発すべきであるにかかわらず、第一加害車に対して停止の合図を発したのみで、その停止を確認することなく、漫然第二加害車に進行の指示をした過失により、本件事故を発生せしめたものである。なお、本件事故当時第二加害車には構造上の欠陥および機能上の障害はなかつた。
第四、証拠 〔略〕
理由
一、本件事故の発生
原告主張にかかる日時場所において、被告江阪運転にかかる北進中の第一加害者と、被告鈴木運転にかかる南進中の第二加害車とが衝突し、その衝撃により、第二加害者が約二米後退し、折柄同所で車両の誘導をしていた原告に衝突したことは、当時者間に争いがない。
二、原告の受傷内容
〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故により顔面挫創・左肩部胸部挫傷・左第ⅡⅢⅣⅤⅥ肋骨々折・硬膜下血腫等の傷害を負い、昭和四〇年三月一七日から同年五月二五日まで大菅病院にて入院治療を受けたこと、しかし、同病院退院後、右血腫のため意識障害・複視・右手足の運動障害等の症状が現われ、同年八月一三日東市民病院に入院し、以後同病院にて、右血腫除去・頭蓋骨片除去等の手術を三回に亘つて受け、同四一年三月二六日同病院を退院したが、右手術の結果、左側頭蓋骨が直径約一〇糎に亘つて除去されてしまつたこと、更に、同病院退院後も、頭痛・左上肢脱力感などの障害が残り、なお治療継続の必要があるが、右頭痛などの障害は、右手術の瘢痕に基くものであり、その完全治癒は困難であることが認められる。
三、被告等の帰責事由の有無
(一) 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められ、右認定に反する被告本人江阪昭尋問の結果(一部)は前記各証拠に照して容易に措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(1) 本件事故現場は、別紙(二)図面記載のとおり、南北に通じる直線且つ平坦な舗装された橋(通称黄金跨線橋、幅員一五・二米但し西端二米は歩道)上で、交通量の多い個所である。なお、右事故当時同橋東側において、訴外清水建設株式会社施行にかかる同橋拡張工事が行なわれており、右工事のため訴外愛光運輸株式会社管理にかかる生コン車二台が、別紙図面記載の個所に駐車し、同橋東側を約二五米に亘つて占拠して他車の通行を妨げていた。そのため、同所を通過する車両等は、全て同橋西側(有効幅員六・六米)を通行せざるを得ず、しかも、同所における大型車両等の離合は困難であり、また、小型車両等の離合にも最徐行を必要とした。しかし、右工事にあたつていた右訴外会社等は、危険防止のための点滅灯の設置もせず、且つ他車の誘導にあたる交通整理員も配置せず、ただ、訴外愛光運輸従業員である原告が、右工事現場に出入する生コン車誘導の合間に、便宜他車の整理に従事するのみで、他に事故発生を防止すべき措置は何ら講じられておらなかつた。
(2) 被告江阪は、本件事故当時、飲酒の直後酩酊した状態で第一加害車を時速約三〇粁で運転して北進し、右事故現場附近にさしかかつたところ、前方道路右(東)側に生コン車二台が駐車し、そのため対向(南進)車進路が通行不能となり、原告が別紙(二)図面記載の生コン車二台の中間道路中央附近において、同所を通過する車両の誘導をしているのを認めた。そして、原告が北進車に向けて懐中電灯を左右に振つて停止の信号を送り、次いで南進車に対して右電灯を上下に振つて進行の信号を送つているにかかわらず、前記飲酒の結果注意力が散漫になつていたため、右信号を誤認し、且つ南進車の有無も確認することなく、漫然前記速度で生コン車四側道路中央附近を進行中、突然前方約七米の個所に生コン車後方から南進して来た第二加害車を認めたが、何らの措置を講じることもできないまま、第一加害車右前部を第二加害者右前部に衝突させた。
(3) 被告鈴木は、本件事故当時、第二加害車を時速約三〇粁で運転して南進し、右事故現場附近にさしかかつたところ、前方道路左(東)側に生コン車二台が駐車し、自車進路が通行不能となり、別紙(二)図面記載の生コン車二台西側道路中央附近において同所を通過する車両の誘導している原告が北進車に対して懐中電灯を振つて停止信号を送り、次いで南進車に向つて進行の信号を送つているのを認めた。そこで、前方に北進中の車両を認めたが、それらは右信号に従い当然停止してくれるものと軽信し、前方を注視してその動静を注視することなく、若干減速したのみで、漫然生コン車四側道路中央附近を南進中、前方約五米に迫つて北進中の第一加害車を認めたが、急制動の措置を講じる間もなく、第二加害車右前部を第一加害車右前部に衝突させた。
上記事実より、被告江阪並びに被告鈴木の過失を判断するに、
(1) 被告江阪は、飲酒直後の酩酊状態における自動車の運転は、注意力が散漫となり、事故発生の危険が大であるから、直ちに運転を中止すべき注意義務があつたものというべきである。しかるに被告江阪は右注意義務を怠り、漫然第一加害車の運転を継続した過失により、第一加害車を第二加害車に衝突させたこと明らかである。
(2) 被告鈴木は、第二加害車を運転して南進中、生コン車駐車のため南進車進路が通行不能で、道路中央若しくは北進車進路を通行せざるを得ず、しかも、前方に北進中の車両を認めたのであるから、単に車両誘導中の原告の信号に従うのみでは足らず、北進車の動静を注視し、その停止を確認したのち、右生コン車西側を南進すべき注意義務があつたものである。しかるに、被告鈴木は、右注意義務を怠り、原告の発する進行信号を確認したのみで、北進車の動静を注視することなく、漫然南進した点に過失のあること否定できない。
(二) そして、第二加害車が被告五興洋紙店の保有にかかること、および、被告鈴木が同被告の被用者であることは、原告と右各被告間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、本件事故時の被告鈴木による第一加害車の運行は、被告五興洋紙店のために行なわれていたことが認められる。
(三) ところで、原告は、被告江阪が第一加害車の運行中に発生せしめた本件事故に基き、被告東洋シャッターに対し民法七一五条の使用者責任若しくは自動車損害賠償保障法三条の運行供用者責任を問うものと解されるが、本件全証拠によるも、右各責任を認定するに足りない。なるほど、第一加害車が被告東洋シャッターの保有にかかることは、原告と同被告間との間に争いがない。しかし、〔証拠略〕を総合すると、被告江阪は、被告東洋シャッターの被用者ではなく、同被告からシャッター取付工事を継続的に請負つている独立の一業者にすぎないこと、従つて、同被告保有にかかる車両等を運転使用する権限を有せず、また、四輪車の運転免許証を有せず、日頃同被告の業務のためには勿論、自己の業務のためにも四輪車の運転に従事したことはなかつたこと、本件事故発生の日、名古屋市中川区新尾頭町において右請負にかかる工事を行つた後、午後七時過頃仕事の打合せのため、同市中川区東出町山手ビル三階同被告事務所を訪れ、右打合せ終了後、第一加害車管理責任者である同被告工事課長訴外渋川鉄雄の机抽出から、同人の許可を得ることなく同車の鍵を持ち出し、同ビル一階車庫に駐車中の同車に、自己所有にかかる工具を積み、同車を運転して帰宅途中に、本件事故を発生させたことが認められる。してみると、本件事故時における被告江阪の第一加害車の運行は、被告東洋シャッターの支配のもとに、その利益のために行われていたものとは直ちに認め難く、むしろ、同被告の支配をはなれ、被告江阪の支配の下に、同被告の利益のために行なわれていたものというべきである。
(四) 以上のような訳で、被告江阪並びに同鈴木は民法七〇九条に従い、被告五興洋紙店は自動車損害賠償保障法三条に従い、いずれも、原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。
四、原告の過失
前項(一)記載の各証拠によれば、原告は、本件事故当時、別紙図面記載の生コン車二台の四側道路中央附近に立ち、懐中電灯により同所を通過せんとする車両の誘導をしていたが、同所を北進せんとする第一加害車と、南進せんとする第二加害車の両者を誘導するに際して、第一加害車に対して右電灯を左右に振つて停止の指示をしたのみで、その動静を注視して停止を確認することなく、当然停止するものと軽信し、右指示後直ちに第二加害車に向つて、右電灯を上下に振つて進行の指示をなしたことが認められる。
そこで、右事実と、前項(一)の認定事実を総合して判断するに、原告は、本件事故当時、交通量の多い道路上に夜間生コン車二台が長時間に亘つて駐車し、そのため南進車進路が通行不能となつているにかかわらず、同所附近に右通行不能の表示は勿論、点滅灯の設置もなく、しかも右通行不能の両端に交通整員も配置されていない個所において、車両の誘導をしていたのである。
したがつて、原告としては、南進車両並びに北進車両の動静を充分注視しのうえ、停止若しくは進行の指示を誤認されることのないよう明確に指示を発すべき注意義務があつたものというべきである。しかるに、原告は右注意義務を怠り、南進車両並びに北進車両の動静を充分確認することなく、漫然と停止若しくは進行の指示していた点に過失のあること否定できない。
五、原告の損害および過失相殺
(一) 得べかりし利益の喪失
〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故当時満四二才(大正一二年二月二日生)の健康な男子で、愛知海運株式会社の日雇作業員(生コン車誘導員)として稼働し、右事故前一ケ年(昭和三九年三月から同四〇年二月まで)に金五二万八四八〇円(月平均金四万四〇四〇円)の収入を得ていたこと、しかし、前記傷害治癒後、昭和四二年一月から再び右会社において日雇作業員として稼働し始めたが、前記頭痛および左上肢脱力感等の障害のため、軽労務にしか従事できず、従つて、月平均金三万六〇〇〇円の収入しか得られないことが認められる。しかして、右事実に、原告の職種・年令・後遺症その他諸般の事情を総合すると、原告は本件事故に遭遇しなければ、少なくとも満六〇才までの一八年間は稼働し、その間年平均金五二万八四八〇円の収入を得るものと推認されるところ、前記各障害のため、その稼働能力の二割を喪失したものと認められる。よつて、原告は本件事故に基き、右一八年間につき、少なくとも年平均金五二万八四八〇円の二割に当る金一〇万五六九六円の割合の「得べかりし利益」を喪失したことになり、これを右事故時における現在額に換算するため、ホフマン式計算法に従い年五分の中間利息を控除して算出すると金一三三万二一一二円(円未満切捨)となる。しかしながら、前項認定の原告の過失を斟酌し、右金員を金八〇万円に減額する。
(二) 慰藉料
原告の受傷部位・程度・治療経過・後遺症その他諸般の事情および原告の過失などを考慮し、慰藉料は金一五〇万円をもつて相当と認める。
六、結論
以上の次第で、原告の本訴請求は、被告江阪、同五興洋紙店および同鈴木の各自に対し、金二三〇万円、およびこれに対する本件事故の日の後である昭和四二年五月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲内で理由があるから、これを認容し、右各被告等に対するその余の請求、および被告東洋シャッターに対する請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺公雄 谷口伸夫 山口正夫)
別紙(一)
<省略>
別紙(二)
<省略>